では、玉木さんが憂う現在の問題点にはどのようなことがあるのでしょう。
「夢の島に来て、僕が一番最初に感じたことは、木がすごく健康に育っていることでした。夢の島の植物については、剪定はぜったいしない、不要木は伐採する。この2点が基本の考え方としてありました。
今、日比谷公園をはじめ、都会の大きな公園には不健康な木が多いなと感じます。
手をかけすぎているし、大きい木をかわいそうだから残そうとする。環境再生医の立場からすると木というのは切らなければいけない時期があるんです。そうしなければ更新木が育たなくて、結局、森全体がダメになってしまう。それを見極めるのも樹木医や環境再生医の仕事ですから、僕はそれができる経験者にならなければいけないと思っています」

木は延命させるだけがよいわけではない。広く長い目で考えれば、樹木の最期をみとることも大事ということです。
「もちろん、大木が育っているということは大切なことですよ。その大木の樹齢が200年なら、200年間そこの環境は変わっていないということですから、環境が安定しているということなんです。ですから、大木が育つような環境を作ってあげるのは大事なことなんです」
今、玉木さんがもっとも危惧している問題点が、この「安定した環境」。今は大木が育つ安定した環境がすっかり崩れているというのです。
「江戸の時代から日本人は樹木を大事にしてきましたので、東京にも天然記念物の木がいっぱいある。たとえば浜離宮庭園には300年松があります。300年松といっても実際は400年は経ていると思うんですけどね。ということは、あそこの環境は400年間変わっていなかったということです。ただ、最近、急激に状態が悪くなっている。近隣に建てられたビル群によって、風の流れが変わったり、ヒートアイランド現象で、夜も温度が下がらずに夏には熱帯夜が続く。そんなふうに都会はとくに安定した環境が崩れつつある。環境が変化すると植物は生きていけないから心配です」
夢の島公園内にもそれを実感する例があります。
「私が働き始めた30年前は、クスノキは東京では寒くて育ちませんでした。今は、この夢の島公園の中にクスノキの実生木がいくらでも育っています。東京が九州の鹿児島の環境と同じになっている。それだけ温度が上がっているということです。また、植物園の外には温室内で増えすぎた植物たちを植えている“館長の庭”と呼ばれる一画があるんですが、屋外にもかかわらず、日本では屋久島あたりが北限のクワズイモが地植えで大きく育っているし、ゴクラクチョウカも咲いているんです。昆虫も、昔は東京にいなかったクマゼミやアオスジアゲハがいますし、確実に環境は変わっている。環境再生医としては、水辺を作るなど、温度を下げるにはどうしたらいいか、とくに東京のヒートアイランド現象を抑えるにはどうしたらいいかは、安定した環境を作るためにとても重要な問題だと思っています」

では私たち一人ひとりにできることにはどのようなことがあるのでしょう。
「環境のことを考える人たちは近年増えていますが、現実をもっと深く見てほしいと思います。私は『ナショナルジオグラフィック』誌に掲載された写真を見てすごくショックを受けたんですが、ボルネオでは巨木が生えていた森を伐採し、パームヤシのプランテーションにしているんです。環境に良いと先進国で人気のパームヤシを植えることで環境を破壊している。それが熱帯ジャングルの現実です。熱帯というのは環境が苛酷な分だけ、自然を復元するのはひじょうに難しい場所なんです。さらに、単一の植物だけが生えている状態というのは自然の摂理に反している。ほんとうに環境のこと考えるのならそういうことを考えていかなければいけない。とくに日本は、1980年代にビルや住宅の建築ブームで木材の需要が急上昇したために、安価な南洋材を大量に輸入して、熱帯アジアの環境を破壊してきた歴史がある。その反省を込めて、これからは日本のような先進国がリーダーシップをとって、自然を再生することや、後進国が別の方法で豊かになることを考え、活動していかなければならないと思うんです」
最後に玉木さんからこんなアドバイスもいただきました。
「まずは、みなさんには、ひとりでも多くの人に、植物を愛でる、尊敬する、敬意の念を持ってほしいと思っています。植物が地球環境の原点であるということをわかっていてほしい。それから、自然は復元力があります。破壊を止めて守ってあげれば再生する。とくに日本は温帯モンスーンの恵まれた環境にあるので、復元しやすい。ですからこれからどうやって守っていくかにも意識を向けてほしいと思います」
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